MARCH 15 - MARCH 29, 2025

PRESS RELEASE:

THE LOOP GALLERYでは、2025年3月15日(土)から3月29日(土)まで、戶田沙也加、朝倉優佳、倉敷安耶、Yeji Sei Leeによるグループ展 『What a Painting Wants』 を開催いたします。

本展のタイトル What a Painting Wants(絵画が求めるもの)は、視覚文化研究者 W.J.T. Mitchellの提唱する「絵画は単なるオブジェクトではなく、見る者と関係を持ち、私たちを見返す存在である」という視点に由来します。本展では、作家たちが「描く」という行為そのものに向き合うことで、絵画と人間の関係性がどのように変容し得るのかを探ります。

作家たちは、これまでのテーマや枠組みを一度離れ、「今、描きたいもの」を描くことを試みます。それは単なる衝動的な表現ではなく、これまでの思考や手法の延⻑線上にありながら、より直感的で身体的な表現へと回帰するもの。作品そのものが作家に何を求め、作家はその問いにどのように応答するのか̶̶本展は、そんな絵画の根源的な欲求と対峙する場となります。

戶田沙也加は、花や動植物、女性をモチーフに、醜さの中に宿る美しさを描いてきました。本展では、かつて制作途中で塗りつぶし、キャンバスから剥がしてしまった作品を再制作。記憶と写真を頼りに、かつて手放した表現と向き合い、時間を超えて絵画と対話する試みを行います。

朝倉優佳は、ファッションという異なる文化領域での経験を背景に、絵画と身体、布と線の関係性を探求してきました。本展では、「もどかしい線」に焦点を当て、届きそうで届かない渇望を、漂う線と色彩で表現します。それは、ギリシャ神話のタンタロスのように、魅了されながらも決して手に入らない感覚の可視化でもあります。

倉敷安耶は、肉体の孤独や他者との距離、関係性の軋轢をテーマに制作を続けています。作品は彼女にとって、信仰であり、他者とつながる架け橋であり、傷を手当てする手段でもあります。近年はインスタレーションを中心に発表してきましたが、本展ではあらためて絵画という表現に立ち返ります。

Yeji Sei Leeは、歴史や場所、社会の構造がアイデンティティをどのように形成するのかを探求してきました。これまで、母と娘の関係や韓国の市場で働く女性をテーマに、個人的な経験と社会的構造が交錯する作品を発表してきましたが、本展では、より私的な記憶の断片と絵画の物理性を追求します。

作家たちは、筆を走らせ、絵具を重ねることで、絵画が持つ意志に耳を傾けます。描くことは、単なる個人的な表現ではなく、絵画と作家の間に生まれる対話でもあるのではないでしょうか。

絵画は、私たちに何を求め、何を語りかけるのか?本展は、描くことと見ることの関係を問い直し、絵画と人間が対話する場となるでしょう。

醜さの中に内在する美しさを、花や、動植物、女性を通して表現し続けています。最近は個人的な出来事や身近な関係性において生まれた思考から作品制作を行っています。
今回の展示には過去に制作されなかった、途中で塗りつぶしてしまった作品を再制作し展示いたします。どの作品も2017年に作成途中で全てキャンバスから剥がしてしまったため現存しておらず、記録的に撮影した数枚の写真と微かな記憶を元に再現しました。過去の自分が向き合うことを諦めてしまった視点や表現をもう一度今見つめ直す必要がある気がしたのです。
タンタロスの線
もどかしい線、そんな言葉が制作中の絵たちから浮かんだ。
魅了されている対象があるにもかかわらず、見たいのに見られない、じれったい、そんな少しの色気や、見られるかもしれないという期待を含んでいる言葉を探した。
「Tantalize」という言葉がある。
ギリシャ神話の登場人物である「タンタロス」に由来し、「欲しいものを見せびらかしてじらす」という意味をもつ。
タンタロスはゼウスの娘プルートーの子(諸説あり)で、神々の食べ物を口にすることで、不死の肉体を得ていた。莫大な富と神々からの愛情を受けていたが、オリンポスの食卓から神の食物を盗み、人間に分け与えたことで神々の怒りを買ってしまう。その結果、タルタロス(奈落)へと送られ、沼の上にある果樹に括り付けられ、取れそうで取れない果物を見つめ、永遠に飢えを感じることとなる。
「タンタロスの線」を作品群のひとまずのタイトルにすることとした。
人間でありながらゼウスの孫として不死の身体をもつタンタロス。その罰は死をもって終えることができず、永遠に苦しみ続ける。

Photo by Muga Miyahara

一貫して、肉体という個別の物質、あるいは付属するカテゴライズによって絶対に断絶された孤独な存在のひとつであるという自覚を持ち、他者との距離について制作を行ってきた。自己と他者との関係には様々な軋轢が生じ、孤独な課題を抱えている。 
作品はそれ自身が私にとっての信仰であり、断絶されたこの身で他者と関係性を紡ぐ架け橋で、あるいはときに軋轢によって生じた傷を手当てし生き抜くためのケアである。宗教・ジェンダー・死・身体等の巨視的な領域から、職業・家族等に至る身近な領域まで、そこに伴う共同体と、生き抜くため行為であるケアをモチーフにし、転写技法を用いた平面作品を主軸にした他、共食をテーマとした儀式的なインスタレーションやパフォーマンスなどを用いる。
私の作品は、歴史や場所、そして社会の中で私たちが通る構造が、どのようにアイデンティティを形作るのかという関心から生まれている。
韓国人の両親のもとに生まれ、日本で育った私は、ナショナリティと生活の場との関係性を常に意識してきた。その経験や感覚を、どうすれば絵画として翻訳できるのか。絵を描くことの物理性と、私自身の意識や記憶が交わる瞬間を探りながら、制作を続けている。

展覧会詳細

「What a Painting Wants」 

戸田沙也加、朝倉 優佳、倉敷 安耶、Yeji Sei Lee

会期:2025年3月15日(土)〜3月29日(土)

開廊時間:12:00 – 19:00

休廊日:日曜、月曜

※3月15日(土)17時〜20時 オープニングレセプション開催

会場:TERRADA ART COMPLEX Ⅱ 4階 BONDED GALLERY

140-0002 東京都品川区東品川1丁目32-8

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