土井にとって、作品制作は人知を超える大きな存在を感じるための方法であり、祈り・まじないの類に近い儀式と言える。そのため土井の作品は共通してどこか崇高な空気を纏っており、鑑賞者を神秘の世界へ誘います。モチーフとして登場する人間と動物の中間とも取れる生物は、誰しもが子供の頃に持っていたようなピュアでありながらもどこか残酷な感情に焦点を当てた存在であり、人間とその他の生物との共生の象徴とも捉えられます。そして彼らの鋭く輝く目や不気味な笑みは、作品に人間らしい感情という毒を持たせています。
本展のために制作された大作「ハゴロモ」は、古くから日本に存在する《天の羽衣》という伝説をもとに制作されています。猟師が山中で水浴びをする天女に出会い、その美しさのあまり天女の羽衣を奪い、天に帰れなくすることで自分の嫁にしてしまうというストーリーの中で、天女は終始純粋で弱く従順な存在として描かれています。それに対して土井の作品で描かれる天女は、「私と居たいなら、あなたが姿を変えてついて来なさい!」と言わんばかりに、猟師ごと羽衣で巻き込んで天に昇っていきます。土井は作品制作の過程を通して、現代を生きる女性の視点から「現代の《天の羽衣》」を再考し、伝説に新たな結末を与えているのです。このユニークな表現からは、土井の作品に通底するボーダーレスな価値観を見出だす事ができます。
土井沙織の描く人間が、動物が、植物が敵でも味方でもなくただそこに存在している世界。そこにはヘイトも優劣もなく、ただ淡々と”今”という時間が流れています。 戦争や差別など、正論だけでは解決することが難しい問題ばかりの現代社会において、土井の作品は、私たち人間が時には愚かであり、時には愛すべき存在であることを改めて思い出させてくれることでしょう。是非実際に会場に足を運んでご高覧ください。
Creating artwork is a way to feel the existence of something bigger than human comprehension, more like a ritual for her, inviting you to a mystical and sublime vibe. We could say that the mysterious creature represents not only the emotions we used to have as children, which is a combination of pure and cruel, but also seems like a symbol of coexistence with other living creatures. Their sharp and bright eyes with crooked smiles give a painting personality.
The art piece “Hagoromo” was created just for this exhibition, originally from the old tale ”ten no hagoromo”. The hunter meets a heavenly maiden while she is bathing in the mountains, falls in love and takes her feather robe so that she is no longer able to leave, ending up making her his wife. In the story, she is the most innocent and submissive person you can imagine; in contrast, she is drawn as the opposite in the painting. As a woman living in this modern world, Doi allows folklore to be turned into a modern version.
No superiority, inferiority, or hate exists in her paintings - only the power of now exists. Doiʼs paintings are a great reminder for all of us who live in this modern society that humans never learn but we all deserve nothing but love.